ほとんどの電波障害を引き起こすノイズは、ノーマルモードノイズとコモンモードノイズに分けられます。最近は通信機の製造技術が格段に進歩し、送信機からのノーマルモードノイズの輻射はかなり減衰されています。しかしコモンモードノイズ対策は、ほとんど改善されていないのが現状です。現実的に作り得る電子回路では、コモンモードノイズの発生は防げません。このノイズはノーマルモードノイズ同様、あらゆる電子機器に電波障害を引き起こします。多くのRFIにおいて、コモンモード障害のケースの方が多いようです。送信機にローパスフィルターを装着するだけの対策では、完全に電波障害を阻止することは難しいと言えます。



Q: コモンモードノイズとはどんなノイズ?
A: ノーマルモードノイズは線間のエネルギーですが、コモンモードは機器と大地間のエネルギーです。大地でなくとも、「大地と浮遊容量を形成するあらゆるもの」と信号源の間のエネルギーという事になります。

Q: コモンモードノイズの発生機序は?
A: 高周波では、平衡/不平衡を問わずその信号の発生および変換あるいは伝送において、バランスのずれや周辺や大地等との浮遊容量や浮遊インダクタンスの影響によって、その本来のエネルギーの一部が形態を変えてしまうのです。これがコモンモード成分です。その値は色々ですが、一般的に約-20dB程度と推定されます。送信機が完全に平衡動作をしていなくてシャーシに入っている以上、またLPFを含めてラインが不平衡である以上、残念乍らコモンモード成分の発生は防げません。

Q: コモンモードノイズはどんな障害を引き起こすのでしょうか。
A: 基本的にはノーマルモードと同じ障害を起こします。コモンモード特有なものとしては、エネルギーが大きいと静電的な雷のように大地と導体の間でスパークや電界を生じます。

Q: ローパスフィルター装着だけではどうして不十分なのですか。
A: コモンモードを阻止するものがないからです。せいぜいLPFの減衰及び大地間の浮遊容量や伝送線路の持つインピーダンスによる減衰しか期待できません。つまりほとんどのコモンモード成分は「素通り」状態で、同軸やアンテナから輻射されてしまいます。

Q: コモンモードノイズはどこから輻射されますか。
A: 同軸ケーブル(芯線/外被両方)、ケース、ACコード、LPFのケース、アンテナ等です。しかし一番エネルギーが大きいのはやはり同軸ケーブルのラインです。また極端な事を言えば、コモンモード成分の周波数が送信機自体のシャーシの対角線の長さ等に同調した場合、いわゆる匡体輻射が起きます。

Q: コモンモードノイズをカットする方法は?
A: 伝送線路の持つインピーダンスをコモンモードに対して高くします。しかし芯線と外皮に流れる電流は逆向きなので、ノーマルモードにおいての送信エネルギーは減衰しません。具体的には同軸ケーブルを巻いてコイルにしたり、透磁率の適度な磁性体で同軸ケーブルを包み込んだりします。

Q: フェライトコア等を使って自作できるように思うのですが。
A: 確かにコモンモードノイズをカットするためには、フェライトコアやフェライトロッド等を使って、阻止したい目的の周波数に対して高いインピーダンスとなる回路を作ります。しかしコアに線を巻いて、インピーダンスとコモンモードの減衰特性を測定してみると良く分かりますが、これが非常にやっかいです。簡単に言えば、巻数を増やして減衰量を多くしようとすると、ある特定の狭い周波数だけが減衰していきます。それ以外の周波数は減衰がごく僅かです。運良くこの減衰の「谷間」の周波数と阻止したい目的の周波数が重なった場合には、それなりの効果はあると思います。
しかしTVの放送周波数帯(100〜250MHz)のように広帯域に亘って、それもある程度の減衰量を保つことは、現実的に難しいと考えられます。なぜならば巻き数が多いと磁気飽和が起きたり、Winding Z は線間容量により直列共振を複雑に起こすので、減衰特性が周波数によって頻繁に変化してしまいす。また構造的にローパスフィルターのようなシールドエリアに入っていないと周囲の影響を受けやすく、その調整や測定はかなり面倒です。

Q: 他社(USA)から、ラインアイソレーターという良く似たフィルターが販売されているようですが、同じ性能なのですか。
A:ラインアイソレーターは、その特性から判断すると、あくまでも送信機側周辺の高周波の回り込み等をなくす用途として販売されていると推測されます。当社のCF250EおよびCF5KVは、送信側ではなく、コモンモードによるTV, Radio, Phone その他の電子機器への電波障害を最大限に除去するために設計されています。ですから他のデバイスへの電波障害を阻止する能力において、当然大きな違いがあります。 確かにRADIO WORKSという会社が、CFシリーズと良く似た形状の製品を「ラインアイソレーター」(T-4に代表される)という名称で何種類か販売しており、日本の販売店がこれを「コモンモード・ノイズ対策フィルター」として販売しています。そしてRADIO WORKS社のカタログには、当社のCFシリーズがこの「ラインアイソレーター」のコピー製品であるとも書いています。
他社製品の批判をするつもりは全くありませんが、あくまでも正しい情報をお伝えするために説明をいたしますと、まず当社のコモンモードフィルターCF250EとCF5KLは、1988年に発売を開始(CQ誌広告)しました。RADIO WORKS社の「ラインアイソレーター」がQST広告に記載されたのが1991年頃ですから、もちろんコピー品などではありません。そして「ラインアイソレーター」が、「フィルター」と呼べるまでの効果が得られるような製品ではないことは、以下に説明する理由から明らかです。(日本の販売店には、これらの詳細な測定データを送付し、「フィルター」という表現は不適当であり、消費者の混乱を防ぐためにも、あくまでも「ラインアイソレーター」という名称を使用すべき旨文書を送付済み)

当社でラインアイソレーターT-4(他の製品もほとんど同じ特性)の500MHzまでのコモンモード減衰特性を測定したところ、HF帯(30MHz以下)では-20dBから-35dBのアイソレーションを持っていました。これはW2DUバランに代表されるカレントバランの特性とまったく同じです。つまり電波の通過帯域でのアイソレーションが大きいわけですから、これを送信機の近くに接続すれば、確かに送信機周辺の高周波の回り込み等や、送信機と至近距離に設置された電子機器に対するコモンモード基本波障害の改善には効果があるかも知れません。またアンテナからの輻射パターンも若干は改善されるかもしれません。ラインアイソレーターは、電気特性的にカレントバランであるわけです。
しかし日本での電波障害対策における最も重要な周波数帯が、80MHzから250MHz辺りであることは説明するまでも無く、コモンモード「フィルター」と呼ぶのであれば、これらの80MHzから250MHz辺りの周波数帯において、送信機の不要なコモンモード成分の輻射を十分に阻止することが可能でなければなりません。
しかしこのT-4の80MHzから250MHzにおける減衰量は、平均すると-10dBから-20dBしかなく、WindingZ(チョーキングインピーダンス)は-20dBが1/10ですから500Ωになり、つまり500Ω以下しか保っていませんでした。
ダイポールアンテナのバランという程度の用途なら、このレベルで特に問題はないでしょうが、HF機から出るVHF帯の高調波のコモンモード成分を阻止するという用途には、どう考えても不十分と言わざるを得ません。最低でもVHF帯で-30dBから-40dBの減衰量を維持できる特性が必要です。

さらに、RADIO WORKS社のカタログ上のT-4およびT-4Gの仕様を見ると、WindingZ(チョーキングインピーダンス)が、3.5MHzでは75KΩ以上、14MHzでは50KΩ以上と記載しているのです(最近のHP上では何と33KΩ以上@3.5MHz, 80KΩ以上@14MHzになっていますが、とんでもない差です)。はっきり言ってこれは無茶苦茶な数値であります。当社で測定したT-4の100MHz以下のコモンモード減衰値は、3.5MHzでは約-15dB、14MHzでは約-30dBでした。
WindingZ(チョーキングインピーダンス)は減衰量から簡単に計算できます。言い換えると、減衰曲線が即インピーダンス曲線になるわけです。仮に-40dBの減衰量なら1/100の電圧ですから、50Ωに対してその100倍(正確には99倍)、つまり5000Ω(4950Ω)ということになります。一番減衰量の大きい30MHz辺りでも-35dBですから、-40dBまで達していません。つまりインピーダンスは5KΩを超えることはないということです。ですからこの会社が公表しているような、33KΩや80KΩ以上というような数値になることはあり得ません。桁が1桁違います。

Q: フロートバランとの違いは?
A: 両方とも直列インピーダンスを高くする目的は同じです。ただ通過させたい周波数帯域で高い直列インピーダンスを得るのがフロートバランです。しかしCFシリーズのコモンモードフィルターは、HF/VHF帯域よりもTV等の放送周波数帯域で、安定した高い直列インピーダンスを得られるようにしたものです。ですからインターフェアーに関しては、バラン以上の効果があるわけです。CF250E/CF250EX/CF5KV/CF5KVXは250MHz以下でブロードなコモンモード減衰特性を備え、安定した高いインピーダンスを保っています。

Q: アース(接地)を接続する場合。
A: アースと言っても様々な目的があります。しかしその接続に際しては注意が必要です。なぜならばインターフェアー対策に関しては、メリットよりデメリットの方が大きくなる可能性があるからです。場合によってはアース線を外した方が、機器の障害が減少することさえあります。例えば2.5feetのアース線は、21MHzの5倍高調波である105MHzの1/4波長アンテナになることを御存知ですか? これは送信機ケースから輻射されるコモンモードのりっぱなアンテナですから、付近のTVセットであれば105MHz付近の放送CHでかなりのインターフェアーが発生します。HF帯の運用ではアース線は1feet以下でGrandに接続するか、それが無理ならばフェライトコアに線を巻いたりして高周波をカットさせて下さい。

Q: CF250E/CF250EX/CF5KV/CF5KVXのセットアップ方法について。
A: 送信機にできるだけ近いところに接続して下さい。フィルターに入出力の方向性はありません。ローパスフィルターを併用する場合は、送信機〜LP〜CF250E/CF250EX、またはリニアアンプ〜LP〜CF5KV/CF5KVXの順序で取り付けて下さい。これはラインの平衡/不平衡関係を考慮し、より本来の性能を発揮させるためです。またこの接続には、中継ケーブルよりも直接コネクター(L-MP 別売)で接続する方が対策上優れています。この距離が長くなるとそこからノイズが輻射される懸念があるからです。 アンテナチューナーやSWRメーター等の周辺機器は、基本的にコモンフィルタ-よりもアンテナ側に接続することをお薦めいたします。 但しこの場合、送信機やリニアアンプに接続されたコモンフィルターの出力側のケーブルが、再びそれらの機器に近づかないように注意して下さい。近づきますとコモンフィルターの前段と後段が容量性結合を起こし、フィルターの性能が100%発揮されなくなります。同軸ケーブルはフィルターを通過させた後、直線的にアンテナへ向かって配置して下さい。

Q: CF250E/CF250EX/CF5KV/CF5KVXを取り付ければ、ローパスフィルターは不要ですか?
A: ローパスフィルターはノーマルモードノイズを減衰させます。ですからCF250E/CF250EX/CF5KV/CF5KVXと併用するのがより効果的な対策方法です。併用する場合の接続には、中継ケーブルよりも直接コネクター(MA-PP 別売)で接続する方が対策上優れています。この距離が長くなるとそこからノイズが輻射される懸念があり、至近距離にある電子デバイスにRFIを起こす場合があります。

Q: CF250E/CF5KVを取り付けてもまだTV等に障害が残るのですが。
A: TV機器の種類やブランドによって、障害に強い/弱いの差があります。その場合はTV機器のアンテナ端子やACラインに、HF/VHF帯の基本波を大きくロスさせるチョークを取り付けて下さい。またTVセットに付属しているような、同軸をただ挟んで留めるような(中に小さなトランスが入った)四角いF型コネクタは交換して下さい。このタイプのコネクタは、内部を仕切っている金属板同士に半田付けを行なったり、コネクタの外周りをシールドさせるだけでも驚くほどの効果があります。またコモンモードフィルターを、減衰量を平均40%増加させた最新型のCF250EXやCF5KVXに交換してみる手もあります。

最近では、TXの後ろとアンテナ直下の2ヶ所にCF5KV/CF5KVXを接続して、どうしても消えなかった21MHzの5倍、50MHzの2倍によるTVIに大変効果があったというレポートを頂いております。インターフェアーは、様々な要因が複雑に絡んでいます。1000局には1000通り異なったインターフェアーが存在します。皆さんのお使いになっているCF250EやCF5KVの設置方法で、非常に効果があったというケースがありましたら、どうかメールで簡単にお知らせ下さい。WEB上にて紹介していきたいと考えています。